★ 七夕 ★

 


「つまり、一年に一度、恋人同士の男女が会うことが出来る日、ということですね?」
「そう」
 執務の間の気分転換、もしくは気まぐれに、七月七日ということを思い出したせいもあって、陽子は浩瀚に『倭における七夕』を話し出したのだった。
 馴染み深い行事だけれど、案外大元の話をいうのは覚えていないもので、結構うろ覚えの怪しい知識の披露に終わってしまったのだが、ひとまず鈴に口止めさえしておけば例え嘘が混じっていてもバレることはないだろうと陽子は高をくくって、自信を持って頷いた。
「なんとも不思議な話ですね」
「そうか?こちらと似てるような感じもするけど」
「いえ、話の設定ではなく、一年に一度しか会わない、というあたりが」
 思ってもない所で引っかかったらしい様子に、意外そうに目を見開いた陽子は、その唇に笑みを乗せると目の前の男に尋ねた。
「ロマンチックだとか思わない?」
「ロマンチック…ですか?」
 理解に苦しむ、というような表情で陽子を見つめる視線に、彼女は今度こそ笑声を立てた。
「一年間ずーっと恋人の事を思って過ごして、そして会えるんだ。素敵だと思うけどな。……まあ、浩瀚の理解の範囲外な気はするけど」
 クスクスと笑って、それから陽子は少し詰(なじ)るような眼差しを恋人に送る。
「でも…例えお前のような奴が牽牛だったとしても、私は来てくれることを期待するぞ」
 陽子の告白に、今度は浩瀚が驚いた様子を浮かべると、小さく失笑した。そして弁解するように口を開く。
「貴方は私の意味を取り違えているようですよ。一年に一度しか会う気がないなんて、本当に愛してはいないんじゃないか、と言いたかったんですけどね。まあ、私が牽牛だとしたら、貴方に会うために、ありとあらゆる手段で天帝なり何なりを解き伏せて、そんな約束事は反古にしてしまいますが」
 顔を近づけて陽子の耳元にそう囁くと、浩瀚は笑顔を見せて、陽子の唇に軽い口づけを落とした。
「浩瀚らしいな」
 呟いて、キスの合間に、クスリと陽子は笑った。

 

 

 


<後書き>
そうだ、イベントネタで七夕やろう!と突然思いついたのです。思い立ったが吉日…と言わんばかりに、日付変わるあたりに書き始めました(笑)

2004.7.7

→モドル