『大好き』



「浩瀚が大好き!」
 欄干から臨める雲海に向かって叫んで、それから陽子は部屋を振り返った。
 不敵な笑顔を向ける先には、彼女の様子を眺めていた浩瀚の驚いた顔。
 基本的にポーカーフェイスが多い彼にしては、珍しいその顔に、陽子はしてやったりと笑顔を深める。
「どう?自分に向かって言って欲しいとか、思わないか?」
「そう、ですね」
 考え込む様子を見せた彼は、すぐに微笑を返した。
「私のような年長者には、それは少し刺激が強すぎますが」
「が?」
「耳元で囁いていただけるのなら、大歓迎、というところですか」
 その返答に陽子がくすくすと笑う。
「了解」
 言い切ると同時に、ポンと欄干を離れ、浩瀚の胸に飛び込んだ。
 そしてその耳元に唇を寄せた。