『七夕 2008』



「ここから見る限り、毎年二人は会えるんだな」
 空を見上げた視線をそのままに、陽子は機嫌よく呟いた。
 空を埋め尽くす幾千の星は、夜空を明るく彩っている。
 倭であれば、日本であれば、七夕といえば梅雨の時期で、晴れるかどうかはちょっと確率の悪い賭けだったが、ここ、堯天の金波宮では、空を隠す雲も突き抜けているため、雨に降られる心配がない。
「それもそれで二人にとってはありがた迷惑かもしれませんよ」
「うん?」
 どういう意味?と視線を落として、隣に座る浩瀚に先を促すと、彼はすっと秀麗な顔に笑みを刷いて答える。
「一年に一度の逢瀬は、雲で隠れた先で、二人だけで過ごしたいかもしれませんでしょう?」
「…そう…かな……。でも雨が降ると川が増水して二人が会えないっていう話なんだけど」
「雨が降るのと雲が出るのは、等しく同じではありませんよ?」
「ああ、そう言われればそうか」
 なるほど、と頷いて、そして陽子はクスリと笑う。
「浩瀚も結構ロマンチックなこと考えるよね」
「私がその男でしたら、そう思うからでしょうね」
「ふぅん」
 陽子は浩瀚の手に指を絡める。その手を握り返されて、陽子は微笑んだ。
「もしかしたら織姫は周囲の人に見せ付けたいのかもしれないよ?『この男は私の男よ』ってさ」
「主上がその女性でしたら、そうお思いになる、と?」
 試すような笑み含んだ浩瀚の声に、陽子はわずかに考えるふうを見せ、そして
「さあ、どうかな。秘密、と答えておこうか」
 思わせぶりに答えると、彼女は握った浩瀚の手を口元に寄せた。